NO.28 「ほんとうに怖いテレビの話」 04.10.01
「人間になれない子どもたち」−メディア漬けと子どもの危機− 清川 輝基 先生 NHK放送文化研究所専門委員 NPO「子どもとメディア」代表理事 さいたま市私立幼稚園協会PTA振興大会 記念講演H16.9.30 昨日、さいたま市私立幼稚園協会PTA振興大会がさいたま市民会館大宮で開催され、その記念講演としてNHK放送文化研究所専門委員の清川 輝基 先生が「人間になれない子どもたち」として講演された。 その内容がショッキングかつ、子どもをもつ保護者の方にとって緊急にお伝えする必要性のある内容だったので急遽当サイトにUPした次第です。 1. 長崎の事件の示唆するもの 長崎県の小学校内において、6年生の女児が同級生を殺害した事件は皆さんがご記憶のことと思います。 何故彼女はこのような行動をとったのか…。 正確に言うなら、彼女は同級生を「殺害」したのではなく、「消去」したのです。 自分にとって都合の悪いメールを「消去」するように、その発信元である同級生を「消去」した。 それもワンタッチでできる確実な方法で。そしてそれを見届けました。 NHKの取材によると同じ長崎県にある小学6年生のクラスで調査したところ、33名中28名の児童が、「人間は死んでも生き返るかもしれない」と答えており、同様な調査を5-6年前に都内の小学校高学年児童にした時も65%が「生き返るかもしれない」と返答していた。 子ども達のこういった生命感は、どこからきたものなのか。 それは、幼少時から見てきたテレビやゲームによるものです。 あるチャンネルで殺された人が、違うチャンネルでは生きている。 ゲームで一度倒した怪物が、リセットすれば復活している。 このような体験を、何百回、何千回も繰り返し体験していくうちに「死んでも生き返る」 という認識ができてきてしまうのです。 事実、長崎の事件の少女は事件の翌日、保護司に対し自分が殺した友人に 「会って謝りたい…」と話しています。 2. 言葉が遅い。視線が合わない。落ち着きがない。…幼児。 現在、小児科への相談に、特に障害等は見受けられないのに「言葉が遅い。視線が合わない。落ち着きがない」幼児の例が数多くみられるようになりました。 これは、テレビ、ビデオ等への接触時間が多すぎることが原因として考えられます。日本小児科医会ではこのことを重大にとらえ、各医院に「子どもに長時間テレビを見せるのはやめましょう」というポスターを貼るなどの運動を行っています。 特に乳幼児には、話しかけて応答させる等、相互方向の交流が発達に必須であり、一方通行な光、音声の浴びせかけは、たとえそれが上質の幼児番組であっても長時間すぎると有害なこととなります。 極端な例は、生後7ヶ月から毎日6時間英語のビデオを見せ続られた子どもが、2歳半で小児科に罹患、英語はおろか日本語も話せず、視線がろくに合わないなど、廃人同様の様子であったという報告もあります。 3. 運動能力の未発達 幼稚園・小学校の先生に、子どもが転ぶとよく顔を怪我するという話を頻繁に聞くようになりました。昔の子どもではこんなことにはならず、顔を付く前に手が出ました。これは、足の指が筋力不足からうまく使えず、手を出す時間が稼げないのが原因となっているようです。 足の筋肉や背筋などの発達は十分に外を駆け回ることから促されます。テレビやテレビゲーム等を長時間接触していると室内にいる時間が長くなり、十分な外遊びの時間がとれず、これらの筋力の発達する時間が足らなくなります。そして、小学校中学年位までに生涯に必要な基礎的な足の筋力ができるので、この後は獲得するのが困難になってくることも考えられます。 子どもには、自由に裸足で走り回れる空間が必要なのですが、ここ数十年でこういった空間は約100分の1に減少してしまいました。 4. ノーテレビ・ゲームデーの絶大な効果 宮城県、鳥取県、それと宮崎県西都市などは自治体が主導してこの「ノーテレビ・ゲームデー」の運動を実施しています。 言葉通り、家族みんなで、「テレビを見ない、ゲームをやらない」日を過ごすというものです。 これを継続した時の効果は劇的で、家族の会話が増える、本を読むようになる、学力が上がる等の結果が報告されています。 特に、幼児のいる家庭で実施した場合、テレビを見ない→必然的に外遊びが増える→運動して疲れる→食事を良く食べる→疲れているから早く寝る→早く寝るから早起きになる。と一気に今までの悪循環サイクルから好循環サイクルに変わったとの結果も出ています。 実践例を見ますと、概ね子ども達は「テレビを見ない」というルールを決めると守ることができるようで、むしろ妨げとなるのは大人の方だそうです。 現在子育て中の大人は生まれた時からテレビがありました。テレビ中毒の期間が長いだけに、短い子どもよりも抵抗があるのです。しかしテレビがない生活を一度してみると、初めての体験にむしろ新鮮な驚きを感ずることが多いとの報告もなされています。 5. まとめ…というか感想。 「人体実験の国」という表現を講演の初頭で先生は使われていた。勿論我々の生活しているこの日本のことである。 ここでは紹介しきれなかったが、数々の国際的、具体的データを示され、子ども達がこれだけメディア漬け(最近では、ケータイも加わっている)になり、かつ遊ぶ場所がない国という点では、この世界中で日本が突出しているとのことだった。 まさに、子どもに外遊びをさせず、メディアに漬けておくとどういう人間に育つか…という人体実験を行っているに等しいというのである。 こんなに恐ろしいことはない…。 最近起こっている数々の事件や本日示したデータは、子ども達から発されたサインであるという。気付かず、何もしなかったのは大人の方であるということ。 諸外国、特に北欧デンマークなどでは、国が子どもを健全に育てるプロジェクトを組み、実践しているというし、あの消費大国アメリカでさえ、子どもに11歳まではパソコンを与えないというのが半ば社会常識化しているという。(日本の各小学校にパソコンを導入したのは通産省の景気活性化対策だそうです) 我々大人がこのことに気付き、できることから実践していかない限りこの国の未来は益々暗くなるだろうということは明白なことであり、実際、教育の一端に携わる身で、このような情報には鋭くアンテナを張っていたつもりではあったが、その認識をかなり上回る事実が本日示され、とても有益であったと同時に認識を新たにさせられた。 また、当日はさいたま市内の各幼稚園に子どもを通わせるお母さん方が多数いらっしゃったが、関心はとても高く100冊用意された先生の著書「人間になれない子どもたち」(エイ出版社)は10分程度で完売となった。 |