NO.62 「改めてまた…読み聞かせについて」 11.5.10

当園で、保育の土台・中心を「絵本の読み聞かせを毎日すること」にしてから、もう15年の月日が流れた。
勿論、それをもたらしてくれたのは、故 矢嶌文夫名誉園長である。
 矢嶌園長と初めて会った時のこと「保育の中に絵本の読み聞かせを取り入れたいのですが…」と控えめにおっしゃられたが、「それは良いですね…」と返したものの、これ程の教育的効果があるものとは恥ずかしながら想像することができなかった。
 そもそも幼稚園教諭の養成課程において「絵本を読み聞かせる」ということはさほど重要視されていない。まあ、早い話が「おまけ」みたいなものである。そんなことより「子どもの自主性を重んじましょう」というようなことをずうっと学ぶ。勿論それも大事だけれど、子どもに対して保育者の側から一方通行的に絵本を読んで聞かせることは大した活動じゃないということを言う人もいるのである。
しかし、このことは聞いている子どもの側からすると全く違っているのだが…それも一人一人の頭の中で…。
 また、過去当園の教員に小学校教諭の一種免許を持っている人が2人程いたが、その人たちに聞いてみても小学校教員の養成課程で「読み聞かせ」ということを教わったことはないということだった。まあ、本なんか読んであげるのだったら漢字とか計算とかをしっかり学ばせるのは…ということを習った方がよいということらしい。それもごもっとも。そんなわけで余程変わった先生たちが居る地域でない限り、「読書タイム」とかにボランティアの人達から月2-3回本を読んでもらうといったところが大半なようである。
 矢嶌園長は、その「余程変わった小学校の先生」だった。何しろ担任したクラスの子どもにほぼ毎日本を読んであげていたのだから…。そして、それは運命的な出会いと思うが「指輪物語」等の名訳で知られる児童文学者「瀬田貞二」さんの御子息を担任することとなる。日本の絵本の文化の礎を築いたとも評される瀬田さん宅で、何度も絵本のもつ力・すばらしさについて教示を受け更に熱心に読み聞かせをするようになったそうだ。
  永年クラスを担任し、最後は旧浦和市立谷田小学校の校長で矢嶌先生は教員生活を終えられたのだが、よく思い起こしてみると、本を良く読めたクラス…即ちよく聴くことができたクラスほど学業成績が良いだけでなく、スポーツも良くできたとのことだった。そして何よりクラスにまとまりがあり、授業もしやすかった…つまり「読み聞かせ」は生徒にとっても教師にとっても良いいことばかりだったということなのだ。
 この幼稚園においても、外部から来園し子ども達の前で話をした方(例:避難訓練の消防士さん・交通安全教室の講師さん)等から
「とてもよく話を聞いてくれる」「問いかけると、すぐに反応し応答してくれる」との感想をもらうことが多い。
 よく考えてみると、「人の話を良く聞ける」ということは学業・スポーツのみならず将来仕事をすることになってもとても大切なことだ。以前埼玉県の幼稚園協会の主催で「絵本の読み聞かせについて」の講演を行った山崎翠さんに「しらさぎ幼稚園では、何より絵本の読み聞かせを保育の土台としています」と言ったら、「講演で全国を回っているがそのような幼稚園に巡り合ったことはない」と嬉しそうにされていた。
 そんなわけで、今年もしらさぎ幼稚園では一生懸命「読み聞かせ」に取り組みます。お子さんがいるご家庭は、できれば毎日読み聞かせをしてあげてください。先生と生徒だけでなく、親と子にとっても良いことばかりです。