NO.68 「子どもは全身が感覚器官」 12.04.05

   

「特に5歳位迄の子どもは全身が感覚器官なんです。」
昨年、毎年保護者を対象に行っている子育て教室で講演していただいた絵本研究家の山崎翠さんは繰り返し述べられていた。
 確かに、子ども達に絵本を読んであげていると我々大人がつい見落としてしまう絵の細部に気付いたり、また耳で日本語のもつ独特のリズム・語感を楽しんでいる様子が伝わってくる時がある。
「全身が感覚器官の人達だからこそ、良い物を見せたり、聞かせたり、また触らせたりする必要があるのです」とも山崎さんは力説されていた。
 そういった意味でも、絵本はうってつけのものだと思う。
この園では教員研修の一環として主に福音館書店の絵本を扱っている埼玉こどものとも社の講習会に出掛けている。そこで本物の絵本の作られていく過程を聞いたことには、作者・画家・編集者が何年もかけて絵も、言葉も吟味し、初期の草稿とは全く違った絵の配置、文になっていることも珍しくないということだった。そこには「全身が感覚器官」の人達にこそ一流の物を一切の手抜き無しで与えるという哲学が貫かれている。
 刊行後100年を経ても色褪せない「ピーターラビット」の日本語訳を任させることとなった石井桃子さんは、作者ビアトリクス・ポターの生活した英国湖水地方ニア・ソーリー村を訪れてから訳を始めた…。
 小学校の教科書にも載った「スーホの白い馬」の作画を担当することになった日本画家の赤羽末吉さんは、舞台となったモンゴルの大平原の広がりを何とか伝えるべく実際に現地を旅した経験を基に全知全霊を注ぎ、それが刊行後40年以上にも渡って子ども達の心を捕らえ続ける名作の絵となった…。
 このような例が当てはまる絵本は他にも沢山刊行されている。
今年もまた、新しい子ども達が入園してくる時期となった。未来を担うこの子達のため、本当によいものをその感覚器官から少しでも多く吸収してもらうため、我々は更に研鑽に努め、特に絵本を見る目を養わなければならない。