NO.9 「まわるほんはやめてね」 02.02.08


  −ある本屋さんの店先でのことです。−
 私は、いつものように絵本を物色していました。そのお店はいわゆる郊外大型書店ながら、品揃えのセンスがよく、なかなかよい絵本が並んでいます。
 そこへ、4−5歳位の男の子が両親に連れられてやってきました。お母さんは何か欲しい雑誌があるらしく、さっさとそちらの方へ行ってしまいましたが、お父さんと子どもはこちらの売り場へ来て、絵本を見始めました…。
 男の子は、平積みになっている絵本を自由に手にとり、お父さんも一緒に見たり、違う本をとってあげたりしています。
そのうちに男の子は「ぐりとぐら」が気に入ったらしく、「この本買ってくれる?」とお父さんに聞きました。
「うん、いいよ」
と答えるお父さん。

何と微笑ましい光景だろうと私が目を細めていた矢先のことです。
お母さんが雑誌を手に戻ってきました。
「○○がこの本を買ってくれってさ…」
とお父さん。
お母さんは「ぐりとぐら」の裏表紙をさっと見ると…
「まあー高いじゃない。こっちの本なら2冊買えるよ」
と、近くにあった鉄製のぐるぐる回る書架にある本を指差しました。
「そうか…。」
お父さんは仕方がないといった風に応じ、男の子もそちらの書架の本を探し始めます。
やがて、薄く、よくあるテレビアニメのような絵が描かれた本を2冊抱えて一家はレジに向いました…。

私は、「おとうさんとお子さんが選んだ本を買ってあげてください」と喉元まで出かけましたが、声に出せませんでした。

もしかして、先に持った本を買って帰ったら、男の子の生涯の心の財産になったかもしれません。
でも、多分ですが、買い求めた後者の方は近い将来廃品回収へと出されてしまうのだと思います。

私の乏しい経験からですが、鉄製の回る書架においてある本で、よい本というのを見かけたことはありません。よい絵本は、作者と画家、編集者が一体となって、一切の妥協をせず、長い年月をかけてつくられています。
だから、子どもの心をとらえるのです。何年も人の心に生き続けるのです。そしてそれは、読む人が親となったとき、次の世代へと受け継がれます。中には、さらに次の世代へと受け継がれる本もあることでしょう。
何十年も、何度も刷られて出版されるのはその証しです。

みなさんも、絵本をお買い求めになるときはこの事を少し思い出してください。高いなと思ったら図書館で借りるということもできます。
でも、お子さんが何度も「読んで!」とせがむ本は買ってあげてくださいね。

何よりそれは、その子の心の宝物なのですから…。