NO.14 「急につく?読書習慣」 03.02.10 


 先日(平成15年2月8日付)の朝日新聞朝刊「私の視点」欄で、大阪市の中学校教諭の方が、小・中学校間の教師の連携が必要との意見を述べておられた。
教育の一端に携わる者として全く賛同する次第である。

 今回は、自分の経験からこのことや、付随する事柄について考えてみたい。
例年、今頃になると各中学校において、新入生の保護者を対象に入学説明会が行われる。その席でのこと…中学校の国語の先生の説明…「3年後にやってくる高校入試の読解の問題は、かなり読解力が必要な問題です。読書習慣をつけるようにしてください」
無論、殆どの子どもが高校に進学する現在、新入生の将来を思えば当然の言葉である。

 しかし、現実に戻って「時期」というものを考えてみれば、当の「新入生」はもう小学6年生の3学期、それも小学生である期間はあと1ヶ月半程である。
 僅か2ヶ月足らずで「読書習慣」がつく方法があるとすれば、是非教えていただきたいものだ。大体2歳からテレビを見始めたとして、12歳までの10年間、読書より*30倍楽に、それも刺激的な情報をとり入れる癖がついてしまっているのだ。生半可なことでは興味を「本」に向けることは不可能であろう。
(*この項目に関してはhttp://www.shirasagi-kg.com/s-yomikikase.htmをご参照ください)

 読者の方は、もし機会があれば、各書店にて販売されている高校入試問題の国語の問題をご覧になっていただきたい。「難関校」と言われる高校ではなくても、特に私立校の読解の問題は長文が多く、主人公や作者の心情を正確に、深く読み取ることができないと解けないものが多いことに気づく筈である。読書習慣のない子には早く、正確に文章を読み取るということが容易でないことは誰の目にも明らかだ。

 一方、小学校の国語の読解の問題はどうであろうか…私の知る限り、小学校で一般的に使用されているカラー印刷の、いわゆる業者テストにおいては、それ程長文の問題とか、主人公等の心情を正確に、深く読みとっていないと回答が困難な問題というのはあまり見当たらない気がする。
 しかし、その問題に取り組んでいた子ども達は、多くが3年後には長文の問題を早く、正確に読み取り、回答しなければならない境遇にさらされるのである。この事実に、小学校のカリキュラムを作成している方は、もっと留意していただきたいと思うのは私だけであろうか…。

 「習慣」というものを形成するには長い期間が必要だ。そして、それが本人に根付くかどうかは、そのものが「楽しい」という記憶の集積をベースにしている必要があると思う。特に幼少時はそうだ。
 読書に関する限り、テレビに脳が浸かってしまわないうちに「本」というものの「楽しさ」をかなり強力に、それも繰返して体験させなければ、1%でも多くの視聴率を獲得しようと巨大資本が全力を注いでいるテレビにとても太刀打ちはできまい。
 でも、もしそれができたならば、その人間は生涯を通じて、いつでも戻ってこれる心の基地(ベース)を持てたこととなるし、何よりもメディアによる情報に右往左往する必要はなくなる。これは、ある意味で自己の確立とともに、限りない自己の自由を手に入れたと言えるのではないかと思う。
 
 先述の大阪市の中学教諭の方は、「中学校の新入生の9割が小学校段階の算数のどこかでつまずいている」と述べられていた。
 算数のつまずきは、その部分を繰返し教え、理解させることによって比較的短期に取り戻せる可能性があると思う。しかし国語の…それも読解力は…その不足を補うには、かなり時間が必要となろう。

 当園において、4月の年度始めに毎年必ず全職員が確認する事項に−「子ども達の長期的な幸せ」を考える−という事項がある。
 長期的な…できれば終生続く幸せのことを考え、今日も絵本を読み聞かせ、保護者の方にも協力をお願いする日々である。